錯体の置換活性が金属イオンで変化する理由[院試で学ぶ]

東工大 物質理工学院

錯体の置換活性が金属イオンで変化する理由[院試で学ぶ]

今回は、銅錯体とクロム錯体を比較して置換活性がどう変化するかについてです。掲載している問題は東工大物質理工学院応用化学系H30[3]であり、以下の記事の続きです。

金属イオンの置換活性は何で決まるのか

④銅錯体\([Cu(H_2O)_6]^{2+}\)が高い置換活性を示すのに対し、同じ八面体アクア錯体である\(Cr(H_2O)_6]^{3+}\)は置換活性をほとんど示さなかった。その理由を\(Cr^{3+}\)の電子配置を考慮して記せ。

□置換活性はd電子数で決まる

置換活性とは、錯体の配位子が他の配位子とどれくらい入れ替わりやすいのかである。その入れ替わりやすさは中心金属のd電子の数で決まる。それを理解するために、まずは錯体の置換反応には2種類の反応機構があることを知ってほしい。

解離反応\((S_N1)\)

金属-配位子間の結合が切れてから置換する配位子が結合する。これは\(S_N1\)機構と似ている。この反応は、最初の金属-配位子間結合が切れやすい環境だと起こりやすい。つまりどういう時かというと、配位子方向に分布をもつ\(e_g\)軌道\((d_{x^2-y^2},d_{z^2}\))に電子があるときである。これは、配位子と中心金属の、電子同士の静電反発により、配位子が脱離しやすくなるためである。

会合反応\(S_N2)\)

配位子が中心金属と結合してから、置換される配位子が脱離することで反応が進行する。これは\(S_N2\)機構と似ている。この反応は、配位子が中心金属と結合しやすい環境だと起こりやすい。つまり、配位子と配位子の間の方向に分布を持つ\(t_{2g}\)軌道\((d_{xy},d_{yz},d_{zx})\)に空きがあるときである。これは、置換する配位子が求核攻撃をするときに電子が存在すると、電子間反発により金属イオンに近づきにくいためである。

以上2つの反応により配位子置換反応が起こる。これらをまとめると置換反応が起こりやすい(置換活性が高い)のは、\(e_g\)軌道に電子があるか、または、\(t_{2g}\)軌道のどれかに空きがあるときである。

さて、問題に戻ると\([Cu(H_2O)_6]^{2+}\)は高い置換活性をもつ理由は、\(Cu^{2+}\)のd電子数は9であり、\(e_g\)軌道に電子が豊富にあるため、解離機構による置換反応が起こりやすい。一方で、\(Cr(H_2O)_6]^{3+}\)の\(Cr^{3+}\)のd電子数は3であり、\(e_g\)軌道に電子がなく、\(t_{2g}\)軌道に空きがあるわけでもないため解離と会合どちらも起こりづらいため置換活性を示さない。

以上が置換活性についての解説である。過去問の問題はまだ続きますが、扱う内容が異なるため別の記事にします。続きはこちらです。

また、院試やTOEICの勉強方法・面接対策についての記事もあるのでそちらもご覧ください。

コメント

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