変分法と変分原理によるπ電子エネルギーの求め方[院試で学ぶ]

東工大 物質理工学院

変分法と変分原理によるπ電子エネルギーの求め方[院試で学ぶ]

今回は永年方程式を作りπ電子エネルギーを求め、最後に非局在化エネルギーを求めます。掲載過去問は東工大物質理工学院H30[6](2)です。また、本問は以下の過去問の続きです。

永年方程式を波動関数から求める

(2)以下の文を読んで、問①~④に答えよ。

メタナール(HCHO)のπ電子の分子軌道φを、炭素原子と酸素原子の\(2p_z\)軌道の線形結合で近似すると、

$$φ=C_cχ_c+C_oχ_o$$

と表される。ここで、\(C_c\)と\(C_o\)は実数の計数であり、\(χ_c\)と\(χ_o\)はメタナール分子面に直交し規格化された実関数の\(2p_z\)軌道である。添え字のC,Oはそれぞれ炭素原子と酸素原子の係数や軌道であることを表している。この場合のハミルトニアンを\(\bar{H}\)とすると、分子軌道φは次の固有値方程式を満たす。

$$\hat{H}φ=Eφ$$

このときの各積分の値を以下のように定義する。

クーロン積分

$$ \int χ^*_c\hat{H}χ_cdτ=α_c$$

$$\int χ^*_o\hat{H}χ_odτ=α_o$$

共鳴積分

$$\int χ^*_c\hat{H}χ_odτ=β$$

$$\int χ^*_cχ_odτ=\int χ^*_oχ_cdτ=S$$

ここで、\(α_c\)と\(α_o\)は、それぞれ炭素原子と酸素原子のクーロン積分の値を表している。ただし、\(α_c<0,α_o<0,β<0\)である。エネルギーEは次式のように各積分の値で表せる。

$$E=\frac{\int φ^*\hat{H}φdτ}{\int φ^*φdτ}=\frac{C^2_cα_c+2C_cC_oβ+C^2_oα_o}{C^2_c+C^2_o+2C_cC_oS}$$

エネルギーEの式に変分原理を適応して、永年方程式を求めよ

□変分法

波動関数φの基底状態を\(φ_0\)、基底状態のエネルギーを\(E_0\)とすると、シュレーディンガー方程式は

$$\hat{H}φ_0=E_0φ_0$$

上式の左側から\(φ^*_0\)をかけて全空間で積分すると、

$$E_0=\frac{\intφ^*_0\hat{H}φ_0dτ}{\intφ^*_0φ_0dτ}$$

量子化学において、基底状態(極小)のエネルギーと任意のエネルギーを比較し、変分原理の下で解析することを変分法という。

□変分原理

ある任意のエネルギー準位のエネルギーEは基底状態のエネルギーより、必ず大きくなる定理のこと。

式で表すと

$$E≧E_0$$

ここからが問題の解答です。

Eについての式を両辺に、左辺の分母成分をかけて

$$(C^2_c+C^2_o+2C_cC_oS)E=C^2_cα_c+2C_cC_oβ+C^2_oα_o$$

両辺C_cで偏微分して

$$(C^2_c+C^2_o+2C_cC_oS)\frac{\partial E}{\partial C_c}+E(2C_c+2C_0S)=2C_cα_c+2C_0β$$

EをC_cについて最小化しているのであるから、\(\frac{\partial E}{\partial C_c}=0\)なので

(変分パラメーターCはEについて最小の値を設定するようになっている)

$$E(2C_c+2C_0S)=2C_cα_c+2C_0β$$

$$C_c(α_c-E)+C_0(β-S)=0$$

\(C_0\)についても同様の操作をして

$$C_c(β-ES)+C_0(α_0-E)=0$$

これら2つの式を行列で表すと

\(\begin{bmatrix}
α_c-E & β-S \\
β-ES & α_0-E
\end{bmatrix}=0\)

全π電子エネルギーの求め方

② ①の永年方程式にヒュッケル近似とメタナールのクーロン積分の値に\(α_c-α,α_0=α+β\)を採用して、

全π電子エネルギーをメタナールについて求めよ。

□ヒュッケル近似

・全ての重なり積分を0にする。
・隣接しない原子間のすべての共鳴積分を0にする。
・残りのすべての共鳴積分は等しいとする(βとおく)
                 (アトキンス物理化学(上)第10版より引用)

ヒュッケル近似よりすべての重なり積分を0として

\(\begin{bmatrix}
α-E & β \\
β & α+β-E
\end{bmatrix}=0\)

$$α^2+αβ-αE-αE-βE+E^2-β^2=0$$

上式をEについて解いていくと、

$$E=\frac{2α+β±\sqrt{5β^2}}{2}=α+1.618β、α-0.618β$$

メタナールのπ電子は2つであり、エネルギーが低い準位の軌道から電子が入っていく。また、1つの軌道には2つまでの電子が入る。

いま、α+1.618βとα-0.618βの2つのエネルギー準位が考えられるが、β<0よりα+1.618βのほうが低いエネルギー準位であるためここに電子が入る。

したがった、メタナールの全π電子エネルギーは

E=2(α+1.618β)=2α+3.236β

③メタナールのπ結合について、

π結合の特徴を分子軌道をもとに説明せよ(メタノール)

分子軸に垂直なp軌道上に2つのπ電子が存在する。

④メタナールとエテン(\(CH_2=CH_2\))の全π電子エネルギーの和を基準として、

2-プロペナール(\(CH_2=CH-CHO\))のπ電子の非局在化エネルギーを求めよ。

なお、ヒュッケル近似による2-プロペナールのπ電子エネルギーは、α+1.879β、α+β、α-0.347β、エテンのπ電子エネルギーはα+β、α-βである。

2-プロペナールのC=CとC=Oの二重結合によるπ電子数は合わせて4つである。上述した通り、このπ電子はエネルギーが低い準位の軌道から入るため、全π電子エネルギーは

E(2-プロペナール)=2(α+1.879β)+2(α+β)=4α+5.758β

また、大雑把であるが構造を比較すると、2-プロペナールのπ結合はメタナールとエテンのπ結合の合計と同じになるはずである。

したがって、2つのπ結合の合計は

E(メタナール+エテン)=2(2α+3.236β)+(2α+2β)=4α+5.236β

さて、両者のエネルギーは同じになるはずだが、2-プロペナールの方がエネルギーが低い。これは非局在化エネルギーであり、π電子が共鳴構造式の存在により非局在化することで低エネルギー化し、安定になる。

実際の非局在化エネルギーは両者の全π電子エネルギーとの差である。

E(非局在化エネルギー)=(4α+5.758β)-(4α+5.236β)


以上が過去問の解答です。また、本サイトでは院試やTOEICの勉強方法や面接対策などの記事も掲載しているのでそちらもご覧ください。

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