錯体の配位子との軌道間相互作用とは[院試で学ぶ]

東工大 物質理工学院

錯体の配位子との軌道間相互作用とは[院試で学ぶ]

今回は、オレフィン配位子(ブタジエン)のπ電子系の分子軌道と中心金属との相互作用についてです。掲載している問題は、東工大物質理工学院応用化学系H30[3]であり、以下の記事の続きです。

配位子の結合が長いのは?

②白金錯体\(Pt(η^2-C_2F_4)(η^2-C_2H_4)(PR_3)\)(R:シクロヘキシル)の2種類のオレフィン配位子のうち、炭素ー炭素結合が長いのはどちらか答えよ。また、その理由を述べよ。

□結合の長さ
結合の長さと強さは反比例する。一~三重結合の中で、三重結合は最も強く最も短い

オレフィン配位子は、π逆供与により炭素ー炭素結合が弱くなり、結合長が長くなる。π逆供与について解説しているページがあるのでわからない方はこちらをご覧ください。

π逆供与は様々な要因で強くなったり弱くなったりするが、本問ではオレフィン配位子の置換基についてどう変化するのかを問われている。つまり、\(C_2F_4\)と\(C_2H_4\)のどちらのπ逆供与が強いのかが分かればよい。そこで注目するのが電気陰性度である。

電気陰性度とは簡単に言えばどれだけ電子を引きつけるかである。FとHではF(4.0)>H(2.1)と、圧倒的にFの方が電気陰性度が高い。つまり、オレフィン配位子の炭素ー炭素結合の電子をFがより引きつけることになる。これにより、炭素ー炭素結合の電荷密度が減少し、中心金属から電子を送り込みやすくなり、π逆供与が大きくなる。よって、中心金属ー配位子の炭素間の結合が二重結合性を帯びて、逆に、オレフィン配位子の炭素ー炭素結合の二重結合性が弱まることで結合が長くなる。

以上のことをまとめると、

どちらのオレフィン配位子もπ逆供与をしているが、フッ素原子は電気陰性のためπ逆供与が大きくなり、C-C間の二重結合性が小さくなり、結合は長くなるため\(η^2-C_2F_4\)のほうが長いと言える。

配位子の分子軌道とd軌道間の相互作用について

③\(η^4配位したブタジエン配位子に関する以下の問(a)~(d)に答えよ。

(a)ブタジエンのπ電子系の分子軌道を以下に示す。\(Φ_1,Φ_2,Φ_3,Φ_4\)のうち、ブタジエンのHOMOとLUMOに相当する分子軌道をそれぞれ答えよ。

□HOMOとLUMO

HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital):

最高被占軌道。電子が入っている軌道の中で、最もエネルギーが高い軌道のことを指す。

LUMO( Lowest Unoccupied Molecular Orbital):

最低空軌道。電子が入っていない軌道の中で、最もエネルギー低い軌道のことを示す。

これら二つの軌道のことをフロンティア軌道という。わざわざ名前を付けるくらいであるから、二つの軌道について議論することは多々あるため非常に重要である。d金属錯体を例に図で表す。

分子軌道のエネルギーは節の数によって決まる。簡潔に言えば、節とは隣の軌道の符号が逆転したときに節となる。\(Φ_1\)はどの軌道も下側が白(正)で上側が黒(負)なので節は0である。よって最も低エネルギーとなる。\(Φ_2\)は左から順に考えると、左側2つの軌道は正負がそろっているが、3つ目から符号が逆転するため、二つ目と三つ目の間が節となる。同様に考えて、\(Φ_3\)は1つ目と2つ目の間と3つ目と4つ目の間に節がある。\(Φ_4\)は隣り合う軌道すべてが正負逆なので3つの節ができる。

以上より、エネルギーは節が多いほど高エネルギーになるため、エネルギー準位は

$$Φ_1<Φ_2<Φ_3<Φ_4$$

となる。一つの軌道には2つの電子を収容可能であり、ブタジエンのπ電子は4つであるため、\(Φ_1\)に2つ、\(Φ_2\)に2つ入る。よって、電子がある最も高エネルギーな軌道(HOMO)は\(Φ_2\)であり、電子がない最も低エネルギーな軌道(LUMO)は\(Φ_3\)である。

(b)上図の座標軸にしたがい、\(Φ_1~Φ_4\)と相互作用が可能な金属のd軌道をそれぞれ答えよ。

軌道間相互作用は、符号が同じもの同士相互作用可能である。

解答の図を以下に示す。

(c)\(Φ_1~Φ_4\)との相互作用を考慮したとき、非結合性軌道となるd軌道を答えよ。

\(d_{x^2-y^2}\)である。

(d)金属中心の電子密度が増加するにしたがい、ブタジエン配位子の\(C^1-C^2\)および\(C^2-C^3\)結合長は、それぞれどのように変化するか。ブタジエンの分子軌道と金属のd軌道との相互作用を考慮し記述せよ。

\(C_2-C_3\)は結合性軌道であり、\(C_1=C_2\)は反結合性軌道である。中心金属との結合により、\(C_1=C_2\)はπ逆供与を受け、結合長は長くなる。一方、\(C_2-C_3\)はσ供与により結合長は長くなる。

以下は補足です。

まず、オレフィン配位子は充満したπ分子軌道から中心金属の空のσ軌道へ供与する。同時に、オレフィン配位子の空の\(π^*\)(反結合性軌道)へ中心金属の充満したdπ軌道がπ逆供与する。このπ逆供与が増加すると、C=C反結合性軌道に電荷密度が局在化し、C=C結合強度が減少し、C-Cに近づき、やがて環状構造になる。

以上が錯体の配位子との軌道間相互作用についての解説です。過去問の[3]はこれで終了です。

本サイトでは院試についての情報を掲載していますので、そちらもご覧ください。

コメント

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